行動制限のない今年の夏、各地では3年ぶりの花火大会やお祭りが開催され、夏の風物詩を満喫された方も多いことでしょう。一方、コロナウイルスの感染者数は依然として多く、また猛暑による熱中症の救急搬送者数も例年と変わらず1週間で約6,000人となっています(2022年8月8日~14日)。どちらも、引き続き警戒が必要です。そんな暑い中の運動はなかなかハードルが高いと思いますが、運動は高血圧の予防にも大きな効果があるんです。


高血圧の運動療法

高血圧の治療は、①食事療法②運動療法を基本とした生活習慣の改善が2本柱となっており、一部患者には薬物療法も加えられます。①は主に減塩、②は1日30分以上の運動が推奨されています。運動について、詳しくみていきましょう。

【種目】ウォーキング・ジョギング・水中運動など
【時間】1日30分以上(10分以上×3セットも可)
【強度】中等度「ややきつい」と思う程度・汗ばむ程度
【頻度】2日以上空けず、1週間で150~300分

これらの条件を満たす運動療法を続けたところ、血圧が低下したという研究結果があるそうです。運動療法を行うことで血管内皮機能が改善され、降圧効果により高血圧症を改善するといわれています。運動により一時的に血圧は上昇しますが、運動後には血圧が低下するとされています。適度な運動を継続すると、筋肉に酸素を運ぶために血管が広がる効果、交感神経の活動が緩和される効果があるからです。


筋トレをプラス~下半身を使ったトレーニングがおすすめ

ウォーキングなどの有酸素運動に加え、筋トレをすることで降圧効果が高まります。特に、からだ全体の70%を占める大きな筋肉である下半身(太もも・お尻)を使ったトレーニングが効果的です。
栗原クリニック東京・日本橋の栗原毅院長が考案した「座るスクワット」を紹介します。

1.イスの前に立って両脚を肩幅に広げる
2.お尻を突き出すようにしながらゆっくり膝を曲げて、腰を下ろしていく
3.イスの座面ギリギリのところで、お尻がつかないようにしながら止めて10秒キープ
4.10秒たったらイスに座り、脚の力を抜いて10秒間休む

1~4を5回繰り返して1セット、朝・昼・夜に1セットずつ行います。慣れないうちはキープ時間を3~5秒にしたり、1日1セットから始めてみましょう。テーブルなどにつかまってもOKです。
加齢により筋肉量が減少する高齢者が下半身の筋肉を鍛えると、転倒予防にもつながります。日常生活で椅子に座る場面は多いでしょうから、その時だけでも行うなど、習慣化できると良いですね。


高齢者は無理のない範囲で

筋トレにはベンチプレスのような重いものを持ち上げる種類もありますが、高齢者にはおすすめしません。重いものを持ち上げる瞬間、誰でも無意識のうちに息を止めます。それで血圧が上がり、力がパワーアップする仕組みになっています。つまり、血圧を上げないと重いものは持ち上がらないのです。
高齢者の場合、無理に重いものを持ち上げようとして脳出血や脳梗塞を起こす方もいらっしゃいます。筋トレに限らず、模様替えでタンスや大型テレビを持ち上げる、重い段ボールを運ぶ場合なども、決して無理をしないでください。
予防するためには、運動時に息を止めないこと。おすすめは、「あーーー」と声を出し続けながら持ち上げること。声を出している=息を止めていない、ということですから。歌いながら、も良いですね。

注意点がもうひとつあります。筋トレも有酸素運動も、運動開始前には準備運動をしっかりと行いましょう。心疾患や心不全のある方は、必ず医師の診断を受けてからにしてください。普段より血圧が高い時、股関節などに痛みや違和感のある時も、やはり無理せずお休みしましょう。
降圧薬に頼らず運動で血圧を下げ、下半身の筋肉が鍛えられれば転倒予防にもなり一石二鳥。自分の筋肉を信じて、今年は“運動の秋”にしてみましょう!