今年はオリンピック特例でスポーツの日が7月に移動されましたが、運動するのによい季節となりましたね。しかし新型コロナウイルスの感染拡大により、外出やレクリエーションの自粛が続いています。国立長寿医療研究センターの調査によると、コロナ渦において高齢者の身体活動時間(運動量)は約3割減少しているそうです。
高齢者の場合、運動量の低下は筋力低下につながり、要介護状態の手前の「フレイル」になるリスクが高まります。今回はフレイル予防の3つの柱「①栄養②運動③社会参加」の二つめである「運動」についてお伝えします。
「サルコペニア」と「ロコモティブ・シンドローム(ロコモ)」
「フレイル」に関連することばでよく聞くのが「サルコペニア」と「ロコモティブ・シンドローム(ロコモ)」。まず、それぞれの用語について説明します。
・サルコペニア
加齢や疾患、心不全、消化器疾患などが原因で筋肉量が減少する状態。ギリシャ語の「sarx (筋肉)」と「penia(喪失)」を合わせた造語です。筋肉量の低下とともに、ものをつかんだりする筋力や歩行速度の低下、歩行困難になります。ロコモに含まれる概念でもあります。サルコペニアによって基礎代謝量が低下し、低栄養などを経てフレイルの状態が進行します。
・ロコモティブ・シンドローム(ロコモ)
運動器(=体を動かすために必要な器官、骨・関節・筋肉・神経を含む)の障害により移動機能の低下をきたし、進行すると介護が必要になるリスクが高くなる状態のことです。筋力低下→バランス能力低下→歩行能力低下→転倒リスク増加→日常生活に制限→フレイル、という悪循環を招きます。下肢筋力を調べるテストと歩幅を調べるテストによって、ロコモ度を確認することができます。
参考: ロコモかどうかCheckしよう | ロコモONLINE | 日本整形外科学会公式 ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト (locomo-joa.jp)
・フレイル
健常な状態と要介護の状態の中間的な状態。日ごろの生活習慣によって要介護に移行することもあり、逆に健常な状態に戻ることも可能な状態といえます。ロコモが進行し、身体能力の低下が自覚症状を伴って顕著になったものがフレイルです。
まとめると、運動器が障害をきたした状態「ロコモティブ・シンドローム」(筋肉が衰えた「サルコペニア」の状態を含む)を経て、生活機能全般が衰弱する「フレイル」となります。高齢者が改善しないままだと要介護状態に至るため、筋力・筋肉量の向上を目的とした運動を意識的に取り入れ、進行の程度を抑えることが大切です。
運動を日常生活に~STEP1 意識を変える
運動の必要性がわかっていても、運動習慣のない方が日常生活に運動を取り入れるのはなかなか難しいですよね。まずは日常生活のなにげない動作を見直すところから始めてみましょう。
座っている時間を減らすために、テレビのCM中に足踏みをする、トイレで用を足した後に手すりと便座を使ってスクワット、1時間に1回窓を開けて換気をする(コロナ対策にも有効です)、などなど。ほんの少しだけ“ついで”や“すき間”の行動を増やしてみましょう。
自宅で簡単に行うことができる運動といえば、ラジオ体操。5~10分という短時間で全身の筋肉の強化ができる、とても良い運動です。また、放送時間が決まっているため生活リズムが規則正しくなるというメリットもあります。
運動を日常生活に~STEP2 レジスタンス運動とストレッチ
サルコペニアやロコモの予防に効果的なのは、運動強度が大きい運動(レジスタンス運動)です。「片脚立ち」と「スクワット」から始めてみましょう。どちらも机など支えになるものを使うと安心です。
1. 片脚立ち(バランス能力をつける)
床に付かない程度に片脚を上げて1分間(左右それぞれ)。1日3セット。
2.スクワット(下肢筋力をつける)
足を肩幅に開いて立ち、お尻を後ろに引くように2~3秒間かけてゆっくりと膝を曲げて、ゆっくり元に戻る(5~6回で1セット)。1日3セット。
スクワットができない場合は、イスに腰かけ、机に手をついて立ち座りの動作を繰り返します。机に手をつかずにできる場合はかざして行います。
また、筋肉は動かすだけでなく、伸ばすことでも強化できます。筋肉のストレッチを行うとき、関節も無理のない範囲で動かして可動域を広げるよう意識しましょう。ウォーキングの前後には太ももやふくらはぎを伸ばすストレッチ、お風呂上りには足指のストレッチ(全ての指を1本ずつ右回し・左回しを各4回、左右それぞれ)がおすすめです。足指をうまく使えることで、よろけたりつまずいたりしたときに足の指の力で踏ん張ることができ、転倒を予防できます。
参考:ロコトレ | ロコモONLINE | 日本整形外科学会公式 ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト (locomo-joa.jp)
運動といっても、体を激しく動かすものばかりではありません。ベッドの上で足を動かす、椅子を使って座る・立つことを繰り返すのも、筋力の向上につながります。ただし、筋力が低下している状態で無理に体を動かそうとすると、転倒や骨折を起こす危険があります。本人はもちろん家族も注意し、専門の医師から具体的な運動方法を教えてもらって取り組めるとベストです。
ひまわりクリニックでは、訪問診療の際にご要望があれば介護度に合わせた簡単な運動やストレッチなどをお伝えしています。お気軽にご相談くださいね。