前回、中高年以降の世代の健康には、毛細血管の働きが重要であることをお伝えしました。加齢で減少してしまう毛細血管ですが、血流アップすることで活性化したり増えたりすることがわかっています。
しなやかで柔らかい血管には“NO(エヌオー)”が必要
血管は加齢とともに硬くなり、しなやかさを失っていきます。これは血圧が高くなる大きな原因の一つとして考えられています。硬くなった血管は、からだの筋肉とは違ってマッサージやストレッチで伸ばすことはできません。しなやかで柔らかい血管を保つため、すなわち血管力を高めるための方法はいくつかありますが、そのひとつがNO(エヌオー:一酸化窒素)の産生を増やすことです。
NOとは、窒素(N)と酸素(O)が結合した窒素酸化物で、主に血管内の細胞でつくられています。自然界では大気汚染や酸性雨の原因となる有害物質ですが、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)医学部薬理学教授のルイス・J・イグナロ博士らの研究で「体内で発生するNOは血管を柔らかくして拡張する物質である」ということが分かりました。ルイス博士らは、1998年にこの研究でノーベル医学・生理学賞を受賞しました。
血管を広げて血圧を下げる、さらに血液中のコレステロールを下げて血管を詰まらせる血栓の発生を抑える働きをするNOを産生することが、血管力向上には欠かせません。
NOを産生するには?
体内のNOは、血流が速くなるときにつくられます。血流が加速するとNO産生に重要な酵素が働き、NOの合成を促します。血流を加速させて血液中のNOを増加させるのに効果的なのは、適度な運動です。
下半身の筋肉を使った運動が特におすすめです。お尻(大殿筋)、太もも(大腿四頭筋・ハムストリング)、ふくらはぎ(下腿三頭筋)を動かすことを意識しましょう。ウォーキングにちょうどいい季節、20分程度歩くこと目標に。ふくらはぎは「第二の心臓」といわれ、脚の血液を循環させ心臓に戻すポンプのような役割があります。歩くことでふくらはぎを使い、NOの分泌を促します。立ち止まった時にはかかとをあげてつま先立ちをすると、ふくらはぎの筋肉をより一層使うことができます。
寒い日や雨の日、外出が難しい方は、部屋の中でできる運動を取り入れましょう。平らな床でデスクなどつかまるところがある安全な場所で、膝を曲げずにかかとを上げて、つま先立ちになります。かかとを下ろしたら、今度はつま先の方を上げ、これを繰り返します。1日2分でも十分効果があります。
タオルグリップ法
カナダ人医師が考案し、アメリカの心臓学会でも評価されている「ハンドグリップ法」は、患者がひとりで行え、血圧を下げることができる運動です。握力を測ることができる「デジタル握力計」を使い、自分の最大握力の30%の力で、2分握って1分休むのを左右2回ずつ行なう方法で、所要時間は約10分、1日に一回でOK。この「ハンドグリップ法」を誰もが手軽に実践できるよう、日野原クリニックの久代登志男先生がアレンジした「タオルグリップ法」のやり方とポイントを紹介します。
- 普通のタオルを四つ折りにして、端からクルクルと巻いて「タオル巻き」を作る。指と指がくっつかない状態で、軽く2分握り・1分休むことを、左右2回ずつ行なう。
- タオルを軽く握る力が、ちょうど30%程度の力に相当する。
- タオルを握る時は、手を心臓より高い位置にしない。呼吸も止めないで。
- 1日に1回、10分程度で十分効果があるため、やり過ぎない。3~4日に1回は休みの日にする。
- 血圧の上限が180-110以上のかなり高い人は、医師と相談して行なう。
※参考文献:『高血圧がスーッと落ち着くタオルグリップ法』久代登志男著(洋泉社)
タオルを使わなくても、手のひらを合わせて力を入れて押し合って急に緩める、お腹や脚に力を入れてふっと緩めるなどでも、1日に数回行うことでNO産生を増加することができます。力を入れる時間は5秒くらいから始めて徐々に長くしていきましょう。ごく手軽な運動でも、無理をせず休憩をとりながら行いましょう。
運動と同じくらい大切なのが、食事です。次回は血管力を高める食べ物・食事についてお伝えします。