酷暑の夏がようやく過ぎ、銀杏並木の黄色に秋の訪れを感じられるようになりました。イベントの多い季節ですが、インフルエンザの患者数が昨年ピーク時期と同様の数になっているそうです。高齢者のいるご家庭では一層の注意が必要ですので、マスク着用や早めの休養など、感染症対策を続けていきましょう。
病気やケガで動けないとき、あれもこれもと手厚く看病してくれる家族がいるのは心強いかぎりです。しかし、これは短期間のお世話だからこそ。長く続く在宅介護に関しては「介護の三原則」の基本理念をしっかり把握して接する必要があります。


介護の三原則とは

1982年、福祉の先進国であるデンマークで生まれました。当時の高齢者問題委員会の委員長であったベント・ロル・アナセン氏によって提唱された考え方で、別名「アナセンの三原則」とも呼ばれます。デンマーク国内だけでなく世界中の介護、もちろん日本の介護においても取り入れられている基本理念です。介護施設で働く介護職員や在宅で介護を行う人はもちろん、体の不自由な高齢者と接する機会のある方は知っておくとよいでしょう。
「介護の三原則」では、高齢者一人ひとりを尊重し、いつまでも自分らしく生活できるよう支援することを目的に、以下の3つの原則を示しています。

  • 生活の継続性
  • 自己決定の尊重
  • 残存能力の活用

この3つの原則について、詳しくみていきましょう。


生活の継続性

介護を必要とする人が、住み慣れた生活環境や生活リズムを突然変えることなく、できるだけそれまでの生活を継続していけるようにサポートすること。
子供が高齢の親をそれまで住んでいた土地から呼び寄せたり、自宅で一人暮らしをしていた高齢者が介護施設に入ったり、高齢になってから生活環境が変わる状況は少なくありません。突然環境がガラリと変わってしまうと、介護を受ける側の精神的負担は非常に大きくなるでしょう。特に認知症患者の場合、症状が悪化してしまうことも珍しくありません。
その人らしく、今まで通り暮らせるよう工夫したり、長く慣れ親しんだ習慣は可能な限り続けられるようにしたいものです。高齢者に限らず、誰しも他人に自分の習慣を勝手に変えられたら……自分自身に置き換えてみることで「生活の継続性」が大切なことか、分かると思います。


自己決定の尊重

介護を必要とする人が、自分の暮らし方や生き方を自分で決められるように支援し、その決定を尊重すること。
加齢により体が不自由になり、自分にできることが減ってくると、本人の思いより家族・介護者など周囲の都合でさまざまなことを決められてしまいがちです。あくまで「介護を受ける側」に意思決定が存在する、というのが「自己決定の原則」です。
たとえ片麻痺になったり寝たきりになったり、どれだけ厳しい状態になろうとも、この先の自分の人生は自分で決定できる環境が理想です。どのような介護を必要とし、どのような介護を受けたいのか。その介護でどんな生活を送れるようになりたいのか。「〇〇したい」という気持ちを叶えることで人生の満足度はアップします。衣類や食事などの小さなことでも勝手に決めたり急かしたりせず、本人に「どちらがいいか」を選んでもらう。その選択が難しい場合は本人に納得してもらえる別の選択肢を提示するようにしましょう。「自己決定の原則」は前述の「生活継続の原則」にも繋がります。


残存能力の活用

何でも周囲が手伝ってしまうのではなく、今ある能力を最大限に使い、自分でできることは自分でやってもらうこと。
介護が必要な人の「できること/できないこと」は人それぞれで大きく異なります。「できないこと」に手を差し伸べるのが当然ですが、「できること」に関しては最低限の手伝いに留めましょう。体に残された機能を活用することは、その動きこそがリハビリになり、機能の回復につながります。
時間に追われこちらがサポートした方が早かったり、大変そうだからと思いやる気持ちからサポートしたりという場面もあるとは思います。しかし長い目で見ると、やはり自身の能力を活用し、難しい部分はそれを補う福祉用具を利用して「どうすればできるか」を考えることが大切です。本人の「できる気持ち・能力」そして「意欲」を奪ってしまわないよう、決して先回りせず待つ姿勢を貫きましょう。


介護の三原則は、どれも難しいことではありません。 「高齢者の尊厳を守る」ことを第一に考え、その方のペースに合わせて、表情やしぐさから気持ちを察して寄り添うだけです。

次回は、高齢者と暮らすための住環境についてお伝えします。